文:ジャニカ・サウスウィック
Food for Africa (FFA) News 創設者、編集長
原文:英語
多くの企業がアフリカを見るとき、まず目に入るのはリスクだ。政情不安、為替変動、安全保障上の懸念、そしてなじみのない市場。日本企業も例外ではない。
しかし、リスクに目を向けすぎると、その一方で進んでいる変化を見落としかねない。アフリカでは市場が拡大し、消費者の姿も変わり、新たなビジネスが大陸各地で生まれている。
実際、アフリカは変わりつつある。その変化は、すでに経済の数字にも表れている。昨年、アフリカ開発銀行(AfDB)は、世界で最も成長の速い20カ国のうち12カ国がアフリカにあると報告した。21カ国では、5%を超える経済成長が見込まれている。
フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、アフリカで急速に事業を拡大しているモバイル金融サービス「Airtel Money」は、約100億ドルの企業価値でロンドン市場への上場を準備している。顧客数は5,400万人を超え、2026年の売上高は13億5,000万ドルに達する見通しだ。
同時に、モバイルマネーは今や重要な金融インフラの一つとなっている。2025年には、世界のモバイルマネー取引額が2兆ドルに達した。こうしたモバイル金融の革新をけん引しているのが、アフリカだ。
アフリカでは、若い労働力も急速に増えている。世界経済フォーラム(WEF)によると、アフリカ人の60%以上が25歳未満だ。2035年までには、毎年労働市場に入る若者の数が、世界の他の地域を合わせた数を上回ると見込まれている。
日本企業が直面する「矛盾」
こうした急速な市場拡大は、日本企業にとって一つのジレンマを生んでいる。
アフリカ経済が急速に成長する一方で、日本企業は依然として市場への参入に慎重だ。為替変動、政府の政策、信用リスクなど、さまざまなリスクを一つ一つ慎重に見極めようとする。
もちろん、慎重さには理由がある。しかし、その慎重な姿勢が意思決定を遅らせ、結果としてアフリカ市場への参入そのものを見送ることにもつながりかねない。
日本からアフリカを見る―野村悠里子さん
南アフリカを拠点に活動するビジネスコンサルタント、野村悠里子さんは、日本のアフリカに対する見方を変える必要があると考えている。

野村さんが目指すのは、アフリカを「最後のフロンティア」と見る従来の捉え方から一歩離れることだ。むしろ、アフリカを「世界にとって不可欠な市場」と捉えている。市場の発展が進む中、日本企業にとっても、もはや無視できない存在になると考える。
「アフリカは世界にとって不可欠な市場になります」
野村さんはそう語り、日本にもその現実を真剣に受け止めてほしいと訴える。
写真:野村悠里子さん
23歳でタンザニアの村へ
野村さんが日本を離れ、タンザニアの人里離れた村に向かったのは23歳のときだった。国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊(JOCV)として、現地の中等学校で数学と物理を教えるためだった。JICAは、日本の政府開発援助(ODA)を担い、途上国の経済・社会開発を支援する独立行政法人だ。
現地での2年間、学校には水道も電気もなかった。野村さんの家から約150メートル離れた井戸から水を運ぶのを、生徒たちが手伝ってくれた。物質的には決して恵まれた環境ではなかった。それでも、そこで暮らす人々の明るさとたくましさは、野村さんの心に強く残った。
人を支援するために始めた活動は、やがて野村さん自身の「開発」に対する考え方を変えていった。「自分のほうが教えられているんだと、少しずつ気づきました。相手の立場に立って考えることの大切さを学んだのです」と野村さんは振り返る。

タンザニア青年海外協力隊時代:生徒との写真
「良い援助」が現地では役に立たないこともある
タンザニアで野村さんが目の当たりにしたのは、善意から行われた援助でも、現地の事情を十分に理解しないまま進めれば、うまく機能しないことがあるという現実だった。
野村さんがいた学校には、米国や欧州から英語の教科書が届いた。しかし、生徒たちは英語を読むことができなかったため、教科書の多くは、ほとんど使われないままだった。
「紙の上では正しく見えること」と「現実に役立つこと」の間には、大きな隔たりがある。
この経験から野村さんは、投資や雇用、経済的な機会を生み出す互恵的なビジネスのほうが、一方的な支援よりも持続的なインパクトを生み出せるのではないかと考えるようになった。この経験が、その後の野村さんのキャリアにもつながっていった。
同時に野村さんは、日本企業がかつて海外へ進出していった原動力の一つだった「ハングリー精神」を失いつつあるのではないかと感じている。一方で、他国の企業はより積極的にアフリカへ進出しているという。
アフリカはインドでも、東南アジアでもない
野村さんが、日本企業が陥りがちな間違いの一つとして挙げるのが、インドや東南アジアで成功した戦略を、そのままアフリカに持ち込もうとすることだ。
アフリカは一つの市場ではない。
国ごとに文化も、商習慣も、ビジネス環境も違う。
どれだけ優れた商品であっても、市場を理解し、消費者に商品の価値を伝え、その地域に合ったマーケティング戦略を築くために時間をかけなければ、成功するとは限らない。
アフリカでビジネスを成功させるには、時間をかけ、現地を知り、状況に合わせて柔軟に変えていく姿勢が必要だ。「良い商品なら自然に売れる」と考えるだけでは十分ではない。
その違いは、アフリカ各地を見ればよく分かる。野村さんが挙げるのは、北アフリカのエジプト、モロッコ、アルジェリア、西アフリカのガーナ、コートジボワール、ナイジェリア、東アフリカのエチオピア、タンザニア、ウガンダ、そして南部に位置するコンゴ民主共和国、ザンビア、アンゴラなどだ。
「どこに機会があるかは、アフリカを一つの市場として見るのではなく、業種や国によって大きく変わります」
アフリカに必要なのは、援助だけではなくビジネス
タンザニアでの経験は、海外からの援助が果たす役割についての野村さんの考え方も変えた。
援助には重要な役割がある。しかし、長期的な発展には一方通行の支援だけでは足りないと野村さんは考えている。
投資は、企業を生み、雇用を生み、所得を生み、政府の税収にもつながる。それによって、経済が自ら成長していく土台をつくることができる。
野村さんにとって、こうした互恵的な関係のほうが、単に支援を提供するよりも長続きする。
外国企業がアフリカに来る目的は、ただ商品を売ったり、資源を取り出したりすることではない。双方に価値を生み出すビジネスをつくることが重要なのだ。
日本の視線は、まだアフリカの外にある
野村さんは、日本企業のアフリカへの関心はまだ十分とは言えないと考えている。
日本では「グローバルサウス」という言葉への関心が高まっているものの、その関心はインドなどの南アジアなどに向けられることが多いという。
野村さんは、そうした関心をさらにアフリカへ向けたいと考えている。日本企業のアフリカ市場への動きは、まだ十分に速いとは言えない。
野村さんが注目しているのが、小規模農家だ。サブサハラ・アフリカでは、大規模農業経営体よりも小規模農家の数が圧倒的に多い。小規模農家の生産性を高めることは、アフリカだけでなく世界の食料安全保障にとっても重要になる。
農家がより多く生産できるようになれば、食料輸入への依存を減らし、雇用を生み、所得を増やすことができる。所得が増えれば中間層が広がり、それがさらに政府の税収を増やし、食料安全保障への投資にもつながる。
投資が生産性を高め、生産性が雇用と所得を生む。そして、経済が強くなれば、食料安全保障も強くなる。
野村さんは、アフリカの農業には二つの市場があると考えている。
一つは「Feed Africa」、つまりアフリカの食を支えるという考え方だ。コメや小麦などの主要作物の生産量を増やし、輸入への依存を減らす。
もう一つは「Feed the world」、つまりアフリカの農産物で世界の食を支えるという視点である。果物やアボカド、新鮮な野菜などの輸出を拡大し、欧州や中東、インドなどの市場につなげていく。
さらに野村さんは、農業生産と製造業、そしてより広い経済成長を結びつける食品加工にも大きな可能性があると見ている。特にガーナやナイジェリアなどがその例だ。
責任ある投資には、公平さが欠かせない
ただし、そこにどのような形で投資するのかが重要になる。
野村さんによれば、アフリカへの投資は、単に「機会を見つけて利益を得る」だけではいけない。
責任ある投資とは、公平で双方向のものでなければならない。
現地のパートナーの声に耳を傾け、事業を行う地域に実際に足を運び、自分たちの考えを一方的に押しつけるのではなく、信頼関係を築いていく必要がある。
奴隷貿易や経済的搾取の歴史を持つアフリカで信頼を得るには、「良いことをしよう」という気持ちだけでは十分ではない。
アフリカ市場への参入を考える企業に対して、野村さんはこう助言する。
「一人で進出しないことです。現地で強いネットワークを築き、信頼できる関係者を見つけ、実際に市場を見て学ぶこと。そして、1日ごとの成果で判断するのではなく、中長期的な視点を持つことです」
現地の市場や文化、人間関係を理解する人材を置き、誰を信頼できるのかを見極めるために、十分な時間を現地で過ごすことも重要だという。
「成功を一日単位で判断するのではなく、中長期的に考えるほうがいい」と野村さんは話す。
アフリカの成長は、資源だけではない
野村さんが見るアフリカの成長の可能性は、天然資源だけにとどまらない。
農業、食品加工、製造業、医薬品、住宅、モビリティ、資源開発――さまざまな分野に機会が広がっている。
日本企業にとって、アフリカ進出のリスクは確かに存在する。
しかし、待ち続けることにもコストがある。
若い頃、JICAの協力隊員としてタンザニアの人里離れた村に赴き、現在はアフリカ市場への進出を考える企業に助言する野村さん。これまでの経験から、アフリカは外から「助ける」だけの場所ではなく、学び、投資し、ともに事業をつくり、ともに成長していく場所だと考えている。
アフリカは、外から「助ける」ためだけの場所ではない。学び、投資し、ともに事業をつくり、ともに成長していく場所なのだ。そして、彼女がアフリカへの関心を持つきっかけとなったタンザニアの村で得た、最も印象的な教訓の一つが、この言葉だ。
「明日は今日より、きっと良くなる」(”Tomorrow will be a better day than today.”)
アフリカは今、その「明日」を自らつくり始めている。日本も、その一員になるべきではないだろうか。
AIS Consultingと、アフリカ市場でビジネスの機会をつなぐ同社の活動について詳しく知りたい方は、以下をご覧ください。
AIS Consulting公式ウェブサイトhttps://africa-ais.com/
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